今回ご紹介する新しいスタイルの焼肉店「うしすけ」が位置するのは、東急多摩川線の武蔵新田駅か らほど近い、古くからの住宅が建ち並ぶアットホームなエリアの一画だ。高級住宅地が並ぶ東急東横 線沿線からもそう遠くない地域ではあるが、よそよそしさのない庶民的な街並みがどこか懐かしい。 その駅前商店街からは少し外れた一角、目の前には地元密着型の中型スーパーがあり、他の街からわ ざわざ訪れる場所ではないが、地元の人々にとっては気軽で便利な立地に「うしすけ」はある。 一見すると店舗には見えないほど、街並みに溶け込んだ洒落た石造りの外観。店内はテーブルのつく りを見ない限りとても焼肉店には見えない。駐車場のある裏庭に面した採光の良いテラス席が特徴的 な店づくりは、取材スタッフも思わず「ウチの地元にもこんな店があったら」と、つぶやくほど魅力 的だ。このテラス席は、もともとは屋外のオープンテラスだったが、店があまりに繁盛して店内にお 客が入り切らなくなり、やむを得ず２年前に客席へと改造したのだという。 独自のアイデアで、カフェのスタイルを採り入れた焼肉店「うしすけ」を経営する吉田社長はまだ若 干３４歳だが、すでにこの店を開業して８年、他にも別業態１店舗を経営し、さらに他の飲食店へ食 肉加工品などの卸売りも行っている。そして現在は、かねてより引き合いのあったフランチャイズ店 の出店計画が数店舗控えているなど、多忙を極める毎日だ。 「生意気かも知れませんが、焼肉業界の流れを変えられたらと思うんです」と、吉田氏は語る。

吉田氏の起業マインドの一端は、すでに学生時代にかいま見ることができる。一浪して入った大学で はクラブ活動に忙しかった。既存のサークルに入るのではなく、ラクロスという新しいスポーツのサ ークルを設立。４年の時には準体育会系の運動部として、大会に参加できるまでに育て上げた。責任 者であるクラブ活動とアルバイトの両立は難しい。そこで考えた末、飲料の自動販売機を管理するこ とでアルバイトに代わる収入を得ることを思いつく。もちろん誰かに教わったわけではなく、自販機 を補充するドライバーに話しかけ、どんな仕組みでビジネスが成立しているのか聞き出したのだ。友 人たちは、なぜ吉田氏がアルバイトに行かず収入があるのかを不思議がったという。 吉田氏の卒業時期は就職難だった。もともと起業家志向だったため、考えた末に日銭の入る飲食業で の起業を志す。いずれにしても企業組織を知らずに会社を作ることはできないと、まずは伝手をたど ってとある企業へと就職したが、その会社は入社後１年を待たずして倒産。 だが、「それも想定の範囲内」とめげずに、２年ほどの修業と準備期間を経て、現在の本店をオープ ンさせたのである。 現在の顧客の大部分は地元のファミリーだ。満席時には待っているあいだ子どもたちが退屈しないよ うにと、裏庭で花火をさせてあげる。半屋外になったテラス席では、ペットの犬を同伴して焼肉が楽 しめる。そうした、これまでにないアイデアに溢れたユニークな焼肉店が、地元で評判になるのはア ッと言う間だった。

堅実な慎重派だが楽観的な吉田氏は、これまであまり経営に悩んだことはない。初めて店舗をオープ ンするときも、「お客が入らなかったらどうしよう」ではなく、「たくさんお客が来てしまったらた いへんだ」と考えて、開業前に充分すぎるほどのトレーニングを積んだ。結果、大きなトラブルもな くスムーズな開業を迎えることができたのだ。 しかし、やはり経営者としての課題はある。特に気にかかっていたのは人材育成だ。業績は順調で も、それに甘んじてスタッフたちが自立しないのではないか？　どうしたら、社長である自分に頼ら ずに社員たちが自ら経営感覚を持って行動してくれるだろう？　考えた末、昨年の春から秋にかけて スタッフに店を任せ、独りオーストラリアへ留学の旅に出た。大きな賭けのような気もしたが、現実 には社長不在の店でスタッフたちは大きく成長したのである。 また、吉田氏自身がこの豪州留学で得たものも多い。これまでとは違った新しい人脈が増え、現地で 出会った若者が、「帰国したら店で働かせて欲しい」と連絡をくれたりする。さらに環境に対する配 慮もそのひとつだ。帰国後、店の箸を割り箸から使い捨てでない銀箸に変えた。また、「マイ箸」を 持参のお客にはソフトドリンクのサービスも行っている。 こうした活動に、「意外に協力してくれるお客様は多いんです」と、吉田氏は微笑む。 牛に助けられる商売だから、と名付けた店名「うしすけ」の通り、「これからも牛肉に関わる業態を 展開していきたいですね」と語る若き経営者の声は明るかった。

会社名 ： 株式会社アップストリーム
店舗名 ： 和味焼肉 うしすけ
所在地 ： 〒146-0093　東京都大田区矢口1-20-8
Ｔ Ｅ Ｌ　： 03-3756-0039