 | VENTURE SPOT 2008年12月号 | 一覧に戻る | |
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関西料理 いち川 |
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<会計事務所から関西和食の世界へ> |
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東海道の宿場町として発展した神奈川県・保土ヶ谷地区。かつて江戸や京・大阪へ向かう人や物
が行き交ったこの街に、20年以上地元の人々に愛されている和食店「関西和食 いち川」がある。オ
ーナーの市川氏は専門学校で会計・経理を専攻し、新卒で会計事務所に勤めたという、飲食店経営
者としては異色な経歴の持ち主。幼い頃から料理に興味はあったものの、父親が地方公務員という
家庭に育ち、両親の希望もあって手堅い職業を選んだのだという。しかし会社勤めを続けているう
ちに、会計の仕事が自分のやりたいことだったのかという疑問がふくらみ、ついに意を決し退職。
生活費を稼ぐために寿司店でアルバイトを始めたが、そこで転機が訪れる。当初はホールや厨房の
簡単な作業を行っていたのだが、突然調理を担当する職人二人が退職することに。困ったオーナー
が、市川氏に料理をやってみないかと声をかけてくれたのだ。「本当はお金が貯まったら北海道の
牧場で働いて、自然の中で自分のやりたいことを見つめようと思っていた」のだそうだが、元来の
料理好きと勉強熱心な姿勢が実を結び、みるみるうちに調理の腕を上げていった。そしてほどな
く、アルバイトながら二人の職人が抜けた穴を補って十分すぎるほどの活躍をするようになったの
だ。喜んだ寿司店オーナーは市川氏に長くお店で働かないかと言ってくれたそうだが、料理の世界
に触れ幼い頃の思いがよみがえった市川氏は、より本格的に和食の勉強をしたいと希望。1年後にオ
ーナーの紹介で大阪の料亭で働きはじめることとなる。
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<大阪での出会い、職人の道・商売人の道> |
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大阪の料亭での修行後、次に紹介された割烹店で、現在の市川氏の基礎を作ったとも言える出会
いが訪れる。店に入って初日、新たに市川氏の親方となった人物は「お前は職人になりたいのか?
それとも商売人になりたいのか?」と尋ねたのだという。いずれは自分の店を持ちたいと思ってい
た市川氏は、迷わず「商売人です。」と答えた。すると親方からは、職人なら料理に集中すべきだ
が、商売人になりたいのなら店のいっさいのことを考えていけと言われたのだという。それからの
市川氏は、厨房に立つ先輩の仕事を見ながら「煮・焼・揚」など様々な和食の技術を覚えていくの
はもちろん、親方が仕入れをする様子から食材の相場観や仕入先との交渉術を学び、女将の仕事ぶ
りからホールスタッフの効果的な導線を知るなど、店内のあらゆることに気を配り良いものは吸収
し、問題があると思えば自分なりの改善方法を常に考えていったという。
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<保土ヶ谷の地域柄を生かした出店> |
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大阪での修行を終え、1988年地元保土ヶ谷で念願の自分の店をオープン。この時も「商売人」ら
しく綿密なマーケティングを欠かさなかった。江戸時代から東海道沿いに栄え寺社も多いという保
土ヶ谷地区の特徴から、法事の団体客が重要な顧客になり得ると想定。また東京で働くサラリーマ
ン世帯が多いことから、幼い子供連れのニューファミリー層の利用も多いと予想。この二つを主要
顧客に添え、どちらの場合も使い勝手が良いようにと、店内は全てふすまで仕切られた個室座敷席
に設計した。ふすまを外せば大人数で利用することができ、法事の際なども小さな家族連れでも周
りを気にせずゆったりと料理を楽しむことができる。
料理は関西仕込みの本格和食。「和食で揚げ物といえば『どんな天麩羅が出ますか?』とお聞きに
なるお客様も多いのですが、天麩羅だけが揚げ物ではありません」と市川氏が言うように、普段私
たちが思う以上に和食の世界は奥深い。和食ながらこれまで食べたことのない料理が出されて、こ
んな料理方法もあるのかと驚き、その繊細な味わいに二度驚くお客も多いのだという。例えば、タ
ラの白子は通常生や天ぷら、揚げ出しで食べることが多いが、関西ならではの料理法に「白子豆
腐」がある。一度炊いて丁寧に裏ごしした白子を、四角く形を整え蒸し上げたものだ。ふんわりと
した白子の食感が上品で、生や揚げ物とはまた違った味わいを楽しむことができる。こうした確か
な腕が評判を呼び、予測どおり近隣の寺社で行われる法事需要や、ニューファミリー層をしっかり
と取り込んでいる。
さらに2000年には、隣接する物件を借り上げバー「BEAR」をオープン。カクテルなどのドリンクが
充実したアットホームなBARで、会社員時代にバーが好きで良く通っていたという市川氏の夢が結実
した一軒だ。だがそこは「商売人」の市川氏、「いち川」との相乗効果を考えて戦略的に出店した
業態でもあるのだ。宴会を「いち川」で、二次会をすぐ隣の「BEAR」でできればお客もわざわざ長
い距離を移動する必要がない。「いち川」と「BEAR」のお得なセットコースを設定したところ、予
想通り利用客からも好評を得ているという。
畑違いの分野から和食の道へ進み、研究熱心な姿勢で料理技術を会得、商売人としての目線も常に
磨いてきた市川氏。かつて会社員として働いた経験も、飲食店の経営という視点で役に立っている
という言葉は、いつかは飲食の道に進みたいと考えているサラリーマンに力を与えてくれるもの
だ。その経営力と確かな腕で、これからも着実に一歩一歩、新たな領域を広げていくことだろう。
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会社名 :
店舗名 : 関西料理 いち川
所在地 : 神奈川県横浜市保土ヶ谷区岩間町2-116
T E L :
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