 | VENTURE SPOT 2006年12月号 | 一覧に戻る | |
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鞍馬サンド代々木店 |
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<サンドイッチにこだわる> |
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今から10年ほど前、映画好きな25歳の青年がサンドイッチの魅力の虜になった。映画館で映画を
見ながら食べられるサンドイッチ、しかも、パンと具材の組み合わせで、無限とも言えるバリエーシ
ョンがある。サンドイッチは、なんて便利で美味しい食べ物なのか。こんな食べ物が他にあるだろう
か。
「将来は自分で映画館を経営し、そこで好きなサンドイッチを作って売りたい」
そんな夢を抱いた青年は、勤めていた百貨店やスーパーの休暇のたびに全国のあちこちへ出かけ、あ
らゆるサンドイッチを食べ歩く。東京、大阪、名古屋、神戸…。やがて日本だけでは飽きたらず、海
外へもサンドイッチ行脚の脚をのばすようになった。だが、本場であるはずのイタリアで食べたパニ
ーニは、日本人の青年には少しも美味しいとは思えなかったのだ。
「日本で食べている“本場の味”は本物じゃないんだ」という事実を知った青年は考えた。
「“本場の味”を売り物にしながら、実は日本人向けにアレンジしたサンドイッチを出している店
は、とてもカッコ悪い。欧米文化の受け売りではなく、日本人は日本人が美味しいと思うサンドイッ
チを作るべきだ」そう気づいた青年は、そのとき、生まれ育った地元三重県に、日本の食材を使った
珍しいサンドイッチを出している店があることを思い出した。
青年はすぐさま勤めていた会社を辞めると、その店「鞍馬サンド」に電話をかけて「自分を雇って欲
しい」と頼み込んだ。
これが、現在の社長である鈴村氏と鞍馬サンドとの出会いだったのだ。
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<鞍馬サンド本店で店長となる> |
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平成9年の春にオープンした鞍馬サンド本店は、そのころ開業からおよそ4年。F1レースで有名な
鈴鹿サーキットへと向かう一本道の途中にある、地下から3階まで吹き抜けの1軒家。デートにも使
えるお洒落なカフェ風の店である。
当時働いていたのは女性スタッフばかりで、男性スタッフを雇ってはいなかった。そこへ電話をかけ
た鈴村氏は、当然のごとく門前払いだったのだが、自らの人生の目標を見いだした鈴村氏がそんなこ
とでメゲるわけはない。直談判しようと直接店へと乗り込んだ。「会社を辞めてきたので、ぜひ雇っ
てください」
「何だ、さっきの電話の人じゃないか」と、対応した当時の創業オーナーは呆れながらも、「君が店
長をやる気があるなら雇ってあげよう」と、条件付きで入社を認めてくれた。
喜び勇んで入社した鈴村氏だったが、新入社員がいきなり店長になっても、そう簡単にスタッフがつ
いて来てくれるはずもない。アルバイトに仕事を教わりつつ、対立したり懐柔したりと苦労を重ねな
がら、鈴村氏は店の業績向上に奮闘する。
そして、長年アイデアを温めていた新作サンドイッチを売り出したとき、転機は訪れた。期間限定と
して売り出したオリジナルメニューが話題を呼び、売上が伸びに転じたのだ。今から約5年前のこと
である。
「業績が良くなると、なぜか店の運営も上手く行くようになるんですよ」と、鈴村氏は当時を振り返
る。
その後、限定販売で人気商品となった新作サンドイッチの多くは、当時のスタッフと一緒にアイデア
を出し合って作り上げた苦労の結晶だ。
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<鞍馬サンドを譲り受け社長に> |
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鞍馬サンドの業績好調を見て気を好くしたオーナーは、その後、鈴村氏にさまざまな店舗を担当させ
た。和食、洋食、ラーメン、寿司、ベーカリーカフェなど、あらゆる店舗の立ち上げに参加し、ある
いは運営を任されることとなる。そして、それなりに成功も失敗も経験した。最終的に、会社として
は店舗数が15店舗ほどまで拡大したのだが、あるとき、鈴村氏はふと「30歳までに自分のサンド
イッチ店を持ちたい」というかつての夢を思い出したのである。
「もう一度、鞍馬サンドの店を自分に任せてください」そう切り出した鈴村氏に、オーナーは「それ
では、いっそ自分で経営したらどうだ」と、驚くべき提案をしたのだった。
それまで、鞍馬サンドは創業オーナーの会社の一事業部にすぎなかった。鈴村氏にビジネスを引き継
ぐため、昨年の春に鞍馬サンドとして新しい法人を設立し、鈴村氏は鞍馬サンドの社長となった。店
舗は現在6店舗。鈴鹿の本店と名古屋店は直営、東京の4店舗はエリアFC店だ。
現在のメニューには、多くの人に好まれる定番サンドイッチと和風に特化した限定販売のサンドイッ
チ、そしてデザートのような甘味系のサンドイッチという3つのカテゴリーがある。
「ポン酢や大根おろしを使ったチキンカツサンドなんて、どこにもなかったでしょう?」
新作サンドのアイデアは尽きない。パンの水分含有率やキメの細かさも、何百軒と食べ歩いた経験を
もとに、日本人好みにトコトンこだわっている。
「奇抜さが先行して『納豆コーヒーゼリーサンド』がメディアにずいぶん採り上げられましたが、ウ
チのサンドイッチの本質は、ちょっと違うんですよ」
サンドイッチに情熱をかけた鈴村氏の戦いは、まだこれからなのだ。
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会社名 : 鞍馬サンド有限会社
店舗名 : 鞍馬サンド代々木店
所在地 : 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-21-12代々木リビン1階
T E L : 03-5367-5247 H P : http://www.kuramasand.jp/
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