 | VENTURE SPOT 2008年11月号 | 一覧に戻る | |
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「鴨丸」祐天寺分校 |
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<普通のOL生活からの脱出> |
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私鉄線の高架下店舗のため、立ち退きという都合によりやむなく閉店した「村上製作所」、また、
現在は何度かのリニューアルを経て店名が変わってしまった「201号室」と言えば、世紀をまた
ぐ東京の飲食シーンを知る人々にとっては、忘れられないユニークな存在だ。そうした不思議なネ
ーミングと存在感を持つ飲食店を生み出した横山社長の20代は、「このままで良いのか?」と自
問しつつ、平凡な会社勤めからの脱出を目指す普通のOLだった。およそ10年間のOL生活のあ
いだ、何度も転職を繰り返したが、「ここが自分の居場所だ」という職場はついに見つからなかっ
た。残る選択肢は「起業して自分の居場所を自分で作る」ことしかなかったのだ。
初めから飲食店がやりたかったわけではない。ただ、会社勤めを辞めて起業するという目的だけが
あり、明確な目標は定まらないまま、まずは「3年間で500万円貯める」ことを決意する。それ
を実行した後、その資金で飲食店を営むと決めたのは、何よりも「飲むことと食べることが好きだ
った」からだ。飲食店ならば、アドバイスをもらうことができる知人の協力者がいたことも決断を
後押しした。
目標の金額が見えてきた段階で、退社の準備に取りかかり、物件を探し始めていた。そして、会社
を退職した半年後の1997年、もとは美容院だったマンションの一室を改装し、横山氏が手がけ
た初めての店「201号室」が恵比寿にオープンした。その名の通り、さほど人通りも多くない通
り沿いの2階。何の看板も出さないというユニークなコンセプトだったが、なぜか少しも焦りはな
かった。
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<素人の目線で話題を生み出す> |
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「201号室」開業の当時は、まだカフェの起業ブームも始まる前。繁華街でもない立地のマンシ
ョンの2階で、まったく看板も出さない店が成功を収めるなどと誰が想像できただろう。しかし、
その店は何と開業1ヶ月目から黒字になったのだ。バブル世代の横山氏は、多くの人々が「欲しか
ったけど、なかった」と感じる店をつくり上げた。
「とにかく、カッコいいお店を開きたかったんです」と、横山氏は語る。「心地良い空間があっ
て、大切な人と行く特別なお店にしたい、と考えました」
彼女にとって、その店には“看板は必要なかった”のだ。その代わり、店をオープンすると横山氏
は通りへ出て、チラシを片手にキャッチセールスでお客を呼び込んだ。大型商業施設の「恵比寿ガ
ーデンプレイス」が開業して数年、恵比寿の街が変わり始めたばかりのころだ。多くの人々は恵比
寿の街に「何か新しいモノ」を求めていたのかも知れない。こうして来店したお客は、“何の変哲
もないマンションのドアを開けると、長い真っ赤なカウンターが眼に飛び込んでくる”というイン
パクトのある演出によって、ひと目でこの店のファンになった。初めて来店したお客の大多数が
「食事でもしていこう」と腰を落ち着け、そして、そうしたお客から「恵比寿に看板のない面白い
店がある」と、トレンドに敏感な客層へ口コミが広がった。
「現場のことは何も判らないから、あくまでお客の目線ですべてを決めた」という横山氏の感性は
見事に的中したのである。その2年後には2号店をオープンし、個人で創業した店も法人化も果た
した。
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<本物を提供するブランドへ> |
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東急東横線の中目黒駅近く、線路のガード下に2001年にオープンした「村上製作所」は、名前
そのままの町工場のたたずまいで大きな話題を呼ぶ。一歩間違えれば、単なるふざけた店になりか
ねない。そんな店を、どうやって大人が楽しめるシャレの利いた店にするかが、横山氏の腕の見せ
どころだ。
恵比寿や中目黒以外にも、ジンギスカンの「クラブ小羊」など、遊び場として成立する渋谷、下北
沢といったエリアを中心に8店舗を立ち上げた。現在営業を続けているのは4店舗。沖縄にも店舗が
あるが、管理は地元のスタッフに任せている。
どの店も、基本的には、まず物件ありきで企画する。家賃が高い場所には出店しない。事務所も兼
ねる鴨料理の「鴨丸 祐天寺分校」は、この4月にオープンしたばかりだが、その名の通り、分校
の校舎のような外観が住宅街で異彩を放っている。この物件も、元は小さな工場の建物だった。ひ
と目見て、「小さな学校の分校のようだ」と思い、そのままをイメージした店づくりをした。しか
し、「鴨丸」という店名は、「村上製作所」のように他の場所では成立しないブランドにはしたく
ない。
「鴨丸」で提供するのは、有機飼料で育てた本鴨を使用した本格的な鴨料理だ。時代の空気を先取
りする横山氏の触角は、多くの人々が本物を志向する現在の食シーンを敏感に感じ取っているのだ
ろう。今は、出店よりも「鴨丸」というブランドをどう育てるかに関心がある。
「日本人の鴨の食べ方が変わるくらい影響力のある、老舗として残るようなブランドに育てたいん
です」と語る横山氏の笑顔は、夢を探し求めていた20代の日々と同じだ。
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会社名 : 有限会社イイコ
店舗名 : 「鴨丸」祐天寺分校
所在地 : 東京都目黒区五本木1-6-3
T E L : 03-3710-9804 H P : http://www.e-e-co.com/
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