 | VENTURE SPOT 2007年11月号 | 一覧に戻る | |
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とんかつ 西麻布豚組 |
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<期せずして飛び込んだ飲食の世界> |
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今回ご紹介するのは、「イベリコ豚のとんかつ」で各種メディアでも話題を呼んだ西麻布のとんかつ
店「豚組」。同店を経営するグレイスの中村氏は広告業界の出身である。中村氏が大学を卒業して最
初に飛び込んだのは大手電機メーカーだった。当時、世の中にはインターネットとデジタルの波が押
し寄せ、まさに変革の時代のまっただ中であったと言える。中村氏も社内でそうした業務に携わるこ
とを希望したが、その企業ではそうした部署への異動が叶うことはなかった。「この時代の変化に関
わり、自分の足跡を残せるような仕事がしたい」そう考えた中村氏は、新たな分野を目指して外資系
広告代理店の日本法人へと転職を果たす。海外留学を目指して勉強し、TOEICで800点をマー
クしていた英語力も役に立った。新しく日本に上陸したばかりのその代理店は業績も急速に拡大し、
中村氏はそこで3年間ほど忙しく働く。しかし、外資系企業での日本人社員に対する待遇の違いに嫌
気がさし退社。その後は、フリーの広告プランナーとして独立し、順調な生活を送っていた。
そんな人生の転機は、知人の若者が中村氏へ「居酒屋を開業したい」という相談を持ちかけたところ
から始まった。「店の運営に関わらなくても良いなら、オーナーとして出資するのは構わない」とい
う約束で始まったビジネスであったにもかかわらず、オープンの2週間前になって当の若者本人が事
業からリタイアしてしまったのだ。出資者のはずが、自ら居酒屋の店内に立つことになった中村氏に
は、その後、苦難の道が待ち受けていた。
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<背水の陣で臨み、つかんだ成功> |
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飲食店の経営に関してはまったくの素人であり、もとより興味もなかった中村氏が運営する居酒屋
は、当然のことながら開業から赤字が続いた。本業である広告の仕事も続けながらの二足のわらじだ
ったが、本業で儲けた資金を居酒屋につぎ込む日々が何ヶ月も続く。やがて、広告ビジネスで稼いだ
資金も底をつき、店はいよいよ撤退の決断を迫られる状況を迎えた。しかし閉店を検討するしかなく
なった時、ついに中村氏の負けじ魂に火がついたのだ。「このままでは終わりたくない!」消費者金
融をまわって最後の資金をかき集め、これまでのメニュー、接客方法、そして、そもそも自分たちは
どのような飲食店を目指すのか、といったすべてのことがらをイチから見直した。そうした中で、そ
れまで「安ければ良いはずだ」「メニューが豊富なら満足だろう」といった安易な考え方で進めてい
た営業方針を根底から覆したのだ。「居酒屋だから当然」と、何となく置いていた料理をやめ、本当
に自分たちがお薦めしたい商品だけに絞り込んで、価格ではなく価値を提案するメニューへと改め
た。苦手だった接客も、かたちにとらわれず本音で接するスタイルへと切り替える。すると、それま
で低迷していた業績が見る見るうちに伸び始めたのだ。撤退を迫られていた年初には500万円に満
たなかった売上が、暮れには1000万円を売る繁盛店となっていた。店の売上が伸び始めた時点
で、広告の仕事は整理し、飲食ビジネスに専念することを決める。飲食業は片手間ではできないと考
えたのだ。今から7年前のことである。
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<時代を超えた老舗を作りたい> |
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中村氏の会社グレイスのロゴマークは人間の「五感」をシンボルにしている。広告は感性に訴える華
やかなビジネスに見えるが、伝えることができるのは主に「視覚と聴覚」に対してのみだ。それに比
べて、「飲食店というのは五感のすべてを満たすことが可能なビジネス」なのだと、実際に携わって
実感したからである。1号店の居酒屋開業から3年を経て、飲食業での成功の秘訣と飲食ビジネスを
進める上での自社のポリシーを確立させた。居酒屋経営では、当初はお客のためにできるかぎり安く
売れる店を作ろうと考えて工夫を凝らした。しかし、安く売ろうとすればするほど、安さを第一に求
めるお客が集まり、そんなお客からは「安い店」だと軽く見られてしまうばかりだった。「一生懸命
働いて、お客から軽んじられるような仕事ならやめてしまった方が良い」そんな経験を経て中村氏が
得た経営方針とは、ある分野に徹底的にこだわった専門店をつくり上げることだった。そうすること
で、そこで働く人たちも自分たちの店と仕事に誇り持つことができる。2号店以降の立ち飲み店、と
んかつ店などはすべて、そうした考え方に基づいて出店した店だ。それが現在の中村氏の経営哲学な
のである。この世界に飛び込んだ時は、飲食店で世の中が変わるとは思っていなかった。だが今は、
「飲食業を通じて世の中を変えたい」という想いが中村氏のビジネスの根底を支えている。「50年
100年と続く老舗ブランドを作り上げたいんです」と中村氏は語る。どこにも負けない専門店とし
て「簡単に消費されない店」を残したい。そんな新しい時代の若き飲食経営者の顔がそこにあった。
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会社名 : 株式会社グレイス
店舗名 : とんかつ 西麻布豚組
所在地 : 東京都港区西麻布2-24-9
T E L : 03-5775-3773 H P : http://www.grace.fm/
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