家庭的な雰囲気を漂わせる「キッチン・フォンティナ」は、東京五反田の駅から徒歩で５分足らずという恵まれたロケーションにある。グーポンズ・フードサービスの代表である宮本氏が率いる４店のうちの最新店舗だ。大田区池上にある１号店の「地鶏とうどんの『でんがな』」からスタートして、これまで和食系の店舗を中心に展開してきた同社にとって、初めての洋食業態でもある。そもそも、宮本氏が飲食業にかかわることになったのは、１０代の終わりに、生まれ育った関西を離れて東京に出てきてからのことだ。当時、大学でラグビー部に所属していた宮本氏は、あることがきっかけでラグビーを辞め、大学も中退することになった。心機一転、東京で職を探そうと上京し、ある大手食品メーカー系列の外食チェーンに就職する。主に居酒屋系の業態を展開するその企業で、のべ４年ほど勤務を続けるうちに外食業界の面白さと自らの素質に気づいた宮本氏は、さらに深く飲食業での経験を積もうと転職を決意する。そして宮本氏が次のステージとして選んだのは、オーナーが創業してから３０年を経ているという老舗の洋食チェーンだった。組織的な経営というよりは、手づくりの味とサービスを売り物にするオーナー経営の企業で、飲食店の原点とも言える調理技術や接客の妙を体験し、身に付けたい、そんな意欲を秘めた転職だったと言えるだろう。しかし、当時はまだ、その転職が現在の独立のキッカケとノウハウを生むことになるとは、宮本氏も知る由はなかった。

２０代の半ばで宮本氏が転職を果たした当時、会社は都内のＪＲ駅ビルのレストランフロアに４店舗を同時出店するなど、まさに伸び盛りといった状況だった。もともとは地中海料理レストランとしてスタートした会社だったが、その時期には居酒屋やラーメン店、うどん店など、さまざまな業態を開発し着々と店舗数を増やしていた。店舗も幹線道路沿いから駅ビルの飲食フロアなど、さまざまなロケーションに出店しており、幅広い経験を積むには絶好のタイミングだったと言える。入社した宮本氏は、すぐに都内の駅ビルに出店した新しい大型店を任されることになった。洋食の分野でのキャリアを得ることを目的として転職した宮本氏であったが、任された店は何とまた和食の居酒屋である。しかし、当時の駅ビルにはまだ珍しい雰囲気のある個室型の大型店舗であり、やりがいは充分にあった。駅ビルの上層階にある飲食店は、近年その多くが苦戦を強いられている中で、宮本氏は自分の持てる能力をすべて注ぎ込んで、その店の業績アップに精力を傾ける。店舗自体の周辺環境から、売上を大きく向上させることはなかなか難しかったが、ＦＬコストを大幅に削減し、管理能力の高さを社内に示したのだ。その努力とパワーはオーナーにも認められ、社歴の長い会社の中で、数多い自分よりもずっと年上の先輩社員たちを追い抜いて、宮本氏は社内で最年少の部長に抜擢された。経営会議やデベロッパーとの打合せにも出席し、店舗の運営だけではなく、出店や会社の経営に関するノウハウも身に付けながら、社内ではさらに活躍の場を広げていった。しかし、そうした頑張りで勝ち得たポジションを大きく活用する間もなく、宮本氏を突然の出来事が襲った。ある日突然、会社が倒産したのである。宮本氏は、再び人生の岐路に立たされた。

宮本氏が会社を設立したのは、今からおよそ３年前の６月。その半年ほど前から、個人経営で池上の１号店をスタートさせていた。最年少部長にまで登りつめた会社が倒産したその時、宮本氏は考えた。「これまで、いろいろな環境で飲食業に関するさまざまな経験を積むことができた。会社が倒産したのも何かのチャンスかも知れない。これを機会に、いっそ独立して自分で店を経営してみたらどうだろう」運良く、倒産した会社が経営していた店舗のうちのいくつかを、入札によって引き継いで運営するチャンスを得ることができた。リストアップされた店舗の中で、もっとも可能性の高い店舗を獲得することができ、１号店の「でんがな」としてオープンする。これまでの経験から、みんながやりたがるお洒落な店より、「うどん・そば」といった庶民的な商材をメインにした商売の方が、はるかに儲かることを知っていた。次いで、品川区の戸越に「軍鶏とおそばの『おての門』」、南麻布に「地鶏とうどんの『甚五郎』」と、およそ１年に１店舗ずつというハイペースで出店を続ける。すべて居抜き物件を狙った低投資での出店だ。立地も同一の鉄道路線の中で検討し、エリア内で無理なく管理できる体制での展開が基本だ。「会社というよりは、まだ自分の個人商店に近いですから」宮本氏の率いるグーポンズ・フードサービスは、創業４年目にして現在４店舗を構えるが、これまで無借金で経営を行ってきた。まだ３３歳だが、ラグビーで鍛えた体力と根性はダテではない。多くの部下や仲間たちに慕われ、「仕事は厳しいが、働く皆が成長できる会社にしたい」と、夢に向けて今日も走り続ける。

会社名 ： 有限会社グーポンズ・フードサービス
店舗名 ： キッチン・フォンティナ　五反田店
所在地 ： 東京都品川区西五反田1-33-10　西五反田サインタワー地下１階
Ｔ Ｅ Ｌ　： 03-5437-8293